インフルエンサーとは教祖力だ!「完全教祖マニュアル」

 スマホの普及により誰もがリアルタイムに繋がり、発信できるモバイルインターネットの時代。これまでガチガチに守られていたテレビ、新聞、書籍などのメディアも競争に直面しており、適応できずに時代に取り残されている。また、新たに発信者となった個人も注目を集めることが非常に難しくなっている。 
このように情報が溢れ、届けることが難しくなっている今、影響力を発揮する為の鍵となるのがコミュニティの形成だ。自身に共感してくれるフォロワーを集め、一緒に企画して作り込み、世の中に届けるのだ。ものやサービスが売れない時代でも、自らが携わったものであればメンバーも買う。結果、初速が上がり、ランキングが上がり、コミュニティ外からも注目され売れ始める。情報が溢れる時代では、売れているものが売れるのだ。情報の受け取り手は選択肢が多すぎて困っているのだ。
ここまで読まれた方は、「理屈はわかる。ただ、どうやってフォロワーを集めてコミュニティを形成すれば良いのか」という疑問を持たれているのではないか。一言で言うと「共感できるビジョンを示し、活動を通じ学びや楽しさを提供し、仲間を定着・増加させる」ことだが、何からやれば良いのかわからない方も多いのではないか。そこで参考になるのが宗教である。実は宗教こそ最強のコミュニティなのである。日本人は宗教への拒絶反応があり、かく言う私も無宗教だが、あらゆる宗教は最強のコミュニティであり、その中心となる「教祖のノウハウ=教祖力」はモバイルインターネット時代のコミュニティ作りの手本なのだ。
本書は新たな宗教を作り、教祖になる為のハウツー本である。というとふざけていると思われがちだが、主要な宗教の成り立ちを振り返り、成功の要因を分析、そのエッセンスが凝縮されている。「教祖=インフルエンサー」「宗教=コミュニティ」「教義=ビジョン」「信者=フォロワー」と置き換え、読み進めてほしい。いま求められている力をつける参考になること間違いない。
なお、構成は「①教祖の定義」から始まり、魅力的な宗教の教祖になる為のプロセスを「②教義を作る」「③信者を集める」「④信者を保持・拡大する」となっており、以下でそれぞれ紹介する。

①教祖の定義
教祖の成立条件は簡単だ。何かを言う人とそれを信じる人がいれば誰でも教祖になれる。教祖のもっとも重要な仕事は信者をハッピーにすること。イエスキリストもムハンマド、釈迦もみんな信者をハッピーにしてきたのである。ここがもっとも重要なポイントである。

②教義を作る
重要なのは、「正しいかどうかよりも人をハッピーにできるか」というポイントである。「大ブレイクした宗教はどれも最初は反社会的」で、当時の社会からは異端とされたものばかりだ。つまり、「常に社会が正しいとは限らない」のだ。フラットに今の社会の問題点を発見し、あるべき姿を設定することが必要だ。これは突飛なものでも構わない。ただ言語化する際は相手のレベルに合わせてわかりやすくする必要がある。もっとも効率的なのは、インテリ層の取り込みである。インテリ層の共感が得られれば、あなたが掲げた理想をロジカルにわかりやすく言語化することができるだろう。

③信者を集める
何も問題や不満が無ければ誰もあなたの教義に耳を貸さないだろう。ターゲットとすべき人々は「困っている人」「迷っている人」「不満を抱いている人」などであろう。困った時の神頼みであり、そういう人に手を差し伸べるのが一番手取り早い。ただ、みんながみんな困っているわけではない。そんな時はどうすれば良いのか。答えは簡単だ。困らせれば良いのだ。実はあなたはこういう理由で困っているんだと困りごとを設定してあげれば良いのだ。この時重要なのは相手が困っていたことを認識していないということだ。例えば現代で成功しているのがエコだ。「今のレベルで資源を浪費し、CO2を輩出し続けると地球上に住めなくなるぞ」という誰も気づかなかったオリジナリティのある問題設定をし、人々の生活にエコを浸透させた。このように人々が認識していなかった不安に火をつけた後、ハッピーになれる解決策を提示できれば信者の保持に繋がる。単純化した言い方だが、キリスト教では「神を信じれば天国に行ける」、仏教では「悟りを開けばOK」という解決策を提示している。

④信者を保持・拡大する
信者を集めたら保持することが大切だ。いわゆるエンゲージ率の向上だ。これには、定例で教祖に直接会えるイベントや地区ごとの集まりコミュニケーションを取り、年に一度のお祭り騒ぎをするなどの設定が考えられる。その時重要なのが非日常感だ。しっかりと準備に時間をかけ、演出することが大切だ。また、組織内に特別なルールを設定するのも面白い。例えば、イスラム教では食物規制や断食がある。これがあることで特別な組織に属している実感を得ることができる。また、ヒエラルキーも重要だ。例えば、たくさん寄付をすれば一目おかれる、であったり、逆に寄付は匿名とし、自尊心をくすぐるなど様々な方法があるが、頑張れば上に上がれるという感覚を味わうことができる仕組みだ。ただ、それが固定化するとその他大勢の反感を食らうので、流動性や不確実性を維持することが重要だ。

以上が教祖になる為のハウツーだ。とは言ったものの、教祖になりたいなんて人はほとんどいないだろう。ぜひここに書いてあることを生かし、影響力のあるインフルエンサーになり、エンゲージ率の高いコミュニティを作ってその他大勢から抜け出してほしい。あとは実践あるのみだ。
 

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

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