人口減少社会への処方箋 「新・所得倍増論」

先進国最速での高齢化の進展、社会保障費の増加、少子化、国の借金の増大など課題が山積みな日本。これらの課題を解決する為には経済成長が必須である。但し、人口が減る中でそれを成り立たせる為には、生産性の向上が不可欠だ。

 
本書では、日本で30年以上在住しているアトキンソン氏(元GSパートナー、現小西美術工藝社社長)が各種データやイギリス人ならではのフラットな視点で日本の高度成長期やその後の失われた20年の理由を明らかにし、少子高齢化の中求められる経済成長への処方箋を提供している。
 
ご存知の通り日本のGDPは世界第3位だ。一方、これを一人当たり(≒生産性)に置き換えると27位でイタリア、スペイン並みだ。日本は高齢化が進んでいるからだ!という意見もあるが、労働人口あたりでの順位はさらに下がる。なぜこのような結果になってしまっているのか。背景には生産性を高めなくても成長できた高度成長期の成功体験がある。
 
GDPは人口×生産性で算出されるが、1977年からバブル崩壊までの経済成長は基本的に人口増による人口ボーナスで説明できる。この期間の人口の伸びは先進国では考えられないレベルであり、日本型経営の賜物ではないのだ。ちなみに1990年代からの低成長の理由も人口減少の影響が大きく影響している。
 
ただ、人口という前提条件が大きく変わる中でもこの時の成功体験を引きずってしまっているのが今の日本だ。例えば、良いものを安く売る、という考え方だ。人口ボーナスで量が出るから高く売らなくてもビジネスが成立する。本来良いものは高くあるべきだし、高く売れるよう知恵を使うべきだ。
また新発売キャンペーンも商品の性能や魅力を語るのではなく、ただ新しいことをセールスポイントにしており、日本特有だ。これも人口ボーナスの中、目を引くキャンペーンやイベントを行えば、それなりの数字が付いてきてしまったことによる影響だ。
 
前提条件を確認し、それに合わせて対応すれば良いのだが、「無条件に現状を維持しようとする姿勢」がその足かせになっている。例えば年功序列。これも平均寿命が短かった頃、職人が腕を極めると同時に亡くなるケースが多かった為成立していたものだ。いまは平均寿命が80歳を超えており、理にかなっていない。銀行の窓口が15時に閉まるのも同様だ。昔はお金の計算を人がやっていた為15時に閉めないと当日中に計算を終えることができなかったのだが、今はATMも普及しており、そんなことはない。このような改善点を指摘しても「昔から続けられている」「前例がない」などの理由で正当化しようとする傾向が強い。結論ありきで前例を確認しようとしないことすらある。本来そのルールが持つ意味が忘れ去られ、ルールを守ることだけが目的化してしまっている。ルールが再検証されないのだ。
 
増え続ける社会保障費、少子高齢化など前提が変わる中、悠長なことは言ってられない状況だ。サービス業、製造業の輸出、研究開発費の効率化など他国比での伸びしろはまだまだある。政財界が一丸となって取り組むべきだ。人口減少は直接的には企業に影響がない為企業の関与が薄くなりがちだが、財政課題を抱える日本では企業の巻き込んでの達成が必須である。そこで筆者はGPIFの株式比率を上げ、利回りを上げるよう企業にプレッシャーを与えることが重要と主張している。自ら変革を起こすのを待つのではなく、外圧で資本の活用、経営者の実績向上、株価上昇を求めるのだ。その結果、設備投資も促進され、生産性向上が期待できる。
 
人口減少時代はすぐそこにきており、これまでの優しい共存共栄ではなく、経営者に強権を発動し、変化を促すしか道は残されていない。
 

デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論

デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論