資本主義から価値主義へ「お金2.0」

2017年はビットコインをはじめとする仮想通貨の年であった。また、valuやtimebankなどの新たなサービスも生まれ、お金とは何かを考えさせられる年でもあった。

 

本書では、お金や経済とは何か?についてその起源やメカニズムを噛み砕いて説明すると共に、それがテクノロジーの進化によって、従来の資本主義の枠組みでは価値が認められなかったものの価値が可視化される「価値主義」の到来を予測している。

内容もさることながら、筆者の物事を深掘りし本質を突き止める姿勢や、導き出された仮説を机上の空論で終わらせず、事業で繰り返し検証する姿勢に感銘を受けた。

 

まず、お金には価値の「保存」「尺度」「交換」の役割があり、貝殻、金属、紙など時代によって形を変えてきた。元々は価値交換などの「手段」に過ぎなかったお金だが、それが社会の中心になるにつれて、お金からお金を生み出す方が効率的だと考える人が出てき、「お金を増やすこと自体が目的」になってきた。お金がないと何もできない資本主義の元では必然的な流れである。

 

そのお金の活躍の場が経済システムだが、持続的かつ自発的に発展する非常によくできたシステムだ。発展するシステムに共通するのが①インセンティブ、②リアルタイム、③不確実性、④ヒエラルキー、⑤コミュニケーションだ。

まず経済システムには参加者がいないことには何も始まらないが、参加者を集めるには明確な報酬が必要だ(①インセンティブ) 。モノが溢れる現代では社会的な欲望が強い。中でも「儲けたい・モテたい・認められたい」を満たすシステムは急速に発展しやすい。

また人間は変化が激しい環境では緊張感を持って活動することができるが、変化がないと緊張も努力もする必要がなくなり、全体の活力が奪われてしまう(②リアルタイム)。

併せて、誰もが何事も予測可能なシステムでは必死に生きたいと思わないだろう。運と実力の両方で這い上がることができるシステム設計が重要だ(③不確実性)。

そのようなシステムの中での活動の結果が可視化され、他の参加者と比較できることも重要だ(④ヒエラルキー)。売上、利益、年収、偏差値、肩書きなどがそれに当たる。但しヒエラルキーが固定化されると全体の活力が失われる為、新陳代謝を促す制度設計が重要だ。

また、参加者とコミュニケーションも重要だ(⑤コミュニケーション)。人は社会的な生き物であり、他人との関係性で自己の存在を定義づけしている。参加者同士が交流しながら助け合ったり議論したりする場を提供することが重要だ。

 

自発的に発展する経済システムは上記の5つの観点が含まれているが、忘れてはならないのが、システムには寿命があるということだ。完璧なものを作ろうとはせずに、寿命があることを前提に、寿命がきたら別のシステムに参加者が移れるように準備しておくことが重要だ。

また、参加者は利害を重ねる共同体でありながらもライバルでもある。自分勝手ややったもん勝ちの状態が放置されると崩壊に繋がる。秩序を保つことが重要だ。それでも意見が分かれることもあると思うが、その時に参加者で共通の理念があるとシステムの寿命が長くなる。

ビットコインフェイスブック、グーグル、アップルなどは働く人に高い金銭的報酬と社会的報酬を与え、激しく変化を繰り返し、数字や役職を可視化し、明確な理念をメンバーに浸透させることに多大な工数を割いている。

 

そして今、お金・経済がテクノロジーにより変わろうとしている。キーワードは分散化だ。

 

既存の経済や社会は必ず組織の中央に管理者が存在し、情報と権力を集中させていた。それが最も効率的だったからだ。その後、インターネットとスマホがプラットホームとなった今、リアルタイムであらゆる情報が共有されるようになり、中央に集まっていた力が個人に分散化されるようになった。UberAirbnb、mercariなどが個人をネットワーク化し価値を個人の遊休資産で価値を提供できるようになった。UberAirbnbもなくなる未来が来るかも知れない。

シェアリングをさらに推し進めたのがトークンエコノミーだ。従来は国家が法定通貨を発行し、企業や個人はその通貨でプレーヤーとしてビジネスや生活していたが、トークンエコノミーでは特定のネットワーク内で流通する独自の通貨をトークンとして企業や個人が発行。トークンの性質や流通ルールも自由に設計が可能だ。国が行なっていることの縮小版である。参加者が増えれば増えるだけ便利になるネットワーク効果があり、アマゾン、グーグル、アリババなどが発行すると面白いかも知れない。

かつては国が作っていた経済システムだが、新しいテクノロジーにより個人が作る時代になっている。

 

このようにテクノロジーにより情報非対称性がなくなり、中央に集まっていた権力が個人に分散化され、従来お金という尺度で測りきれなかったものがお金や価値を生む時代になった。それが価値主義である。

 

企業価値は財務諸表から算定されるが、今の会計はネット誕生以前のもので、製造業が中心の仕組みだ。モノが溢れ、サービス業が中心となりつつある中で価値主義にそぐわなくなっている。例えばwebサービスの会社にとっては最大の資産はユーザーやそこから得られる購買データなどだが、仕組み上、財務諸表にその価値が載せられない。googlefacebookもデータ価値をお金に変えていないだけなのだ。

そのような状況の中で、海外の一部の投資家は「企業の従業員の満足度」を投資判断に用いている。IT企業などは財務諸表を見ていても競争優位となる価値が反映されていない。優秀な人がやりがいを持って働いているかどうかが最も重要な基準なのだ。

 

資本主義から価値主義への大転換期の今、個人がすべきことは価値の最大化だ。あらゆる価値を最大化しておけばいつでもその価値をお金に変えることができる。あらゆるものの判断基準が「自分の価値を高められるか」に変わるのだ。

 

本書には徹底的な検証を経て見出された本質が詰まっている。変化の激しい時代だが、内容を自分のものにして、色々と仕掛けていきたい。

 

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

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