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100の生業を持つ百姓になれ!「日本再興戦略」

バブル崩壊後低成長に悩まされている日本。追い打ちをかけるように高齢化が急速に進み、既存の社会システム維持の為には人口減少の中での経済成長という難易度の高い課題が立ちはだかる。それを実現する為には生産性の向上が必須であり、AI、ロボットをはじめとする技術への期待が高まっている。


しかし、技術の導入だけでこの問題を解決することができるのだろうか。効果最大化の為にも日本のグランドデザインが必要だ。これまでの安易な“欧米方式”の横展では不十分だ。日本の現状に真正面から向き合い、日本の歴史を踏まえた、日本人の価値観に合ったあるべき姿の設定が必要だ。革新的な技術の導入前の今がチャンスなのである。


本書では今世界で最も注目される日本人科学者の落合陽一氏が徹底的な歴史・現状分析で「日本には何が向いているのか」という本質をあぶり出し、高齢化社会・人口減少が進む日本が世界で圧倒的に突き抜けるための処方箋を描いており、これからの日本を考える上で必読である。


日本の戦後からの高度成長期の発展は目を見張るものだった。戦後の混乱の中、アメリカやヨーロッパの社会システムを採用し体裁を整え、モノが不足する中で誰もがより良い生活を求めてがむしゃらに働いた。ゼロからの出発に人口増加の追い風が吹き、経済は成長し、生活は豊かになった。“日本的”とされる終身雇用や年功序列などの強固なシステムの中で、働いた分だけ豊かになったのだ。要はあまり深く考えなくても人口が多いのでそれなりに売れてしまい、失敗を見えづらくしていたのだ。

だが、その後バブルが崩壊。日本は低成長に悩まされてきた。モノ不足→モノ余り、人口増加→減少、経済発展を通じ価値観が変わる中、大量生産大量消費時代に導入した仕組みを盲目的に信じ、これまでもなんとかなっていたので、この先もなんとかなるだろうという根拠のない楽観論でここまできてしまったのだ。日本人はルールを守るのは得意だが、そのルールがなぜ設定されたのか、時代に合ったものなのか、検証し、アップデートするのが苦手である。考えることを放棄したツケが今回ってきているのである。


このような環境の中で落合氏は「①仕事のポートフォリオマネジメント」と「②金融的投資能力」が必要であり、適切な時期での教育に織り込むことを強く推奨している。


①仕事のポートフォリオマネジメント

高度成長期の仕事は重厚長大産業が中心だったが、今はモノとサービスのバリューチェーンで勝負する時代になっており、価値も他業界も巻き込み水平統合で付けていく時代に変わっている。結果、サービス業の比重が高まり、栄枯盛衰が激しくなっている。激動の時代では会社も終身雇用を保証することができなくなる。個人もこれまでのように同じ仕事を同じ会社で続けることはリスクだし、特にホワイトカラーの仕事は代替可能で希少価値がない。そんな中、我々は百姓的な生き方、つまり、百の生業を成すことを目指した方が良いのです。江戸時代の百姓は実際に複数の仕事を掛け持ちしていたのだ。そうすればバリューチェーンで考えられるようになるし、コモディティ化することもない。百の生業の中でもプロフィットセンターとコストセンターを持つことができれば、好きなことも安定的に続けることができる。ただし、何にでもがむしゃらに手を出せば良いという訳ではない。まずは何か1つのことをやりきり、その中でTopになることが必要だ。そうすれば他の業界のTop of Topの目に止まり、初めて横展のチャンスが生まれる。今の時代はTop of Topに”会う“ことへのハードルは下がっている。しかし、会ったり、写真を撮ったりするだけでは何の意味もない。Top of Topとしっかり話ができて、君と仕事がしたい、と思われて初めて横展が可能になるのだ。


②金融的投資能力

Topになる為には時代感覚を掴む能力が必要であり、それは金融的投資能力とすごく似ている。そのため、仕事のポートフォリオマネジメントに加えて、金融的投資能力が求められる。金融的投資能力とは「何に張るべきか」を予測する能力だ。日本人は一般的にこの手の対応が苦手だが、それは縦割りで専門家を育てようという風潮によるところが大きい。そうならない為にも、何でもよいのでTopになり、百姓として横展をすることが重要だ。


これからの時代は上記2つの能力が特に求められるが、教育システムはこれに対応できていない。落合氏はこれらを高校教育に入れ込むべきだと主張している。事実、高校は上級中学校のようになっており、大学受験に備えるだけに成り下がっている。幼稚園、小学校、中学校、高校、大学と人間の成長に合わせた教育をするべきだが、まさに高校はポートフォリオマネジメントと金融的投資能力を教える絶好の機会である。


全体を通じ、落合氏の現状把握能力、歴史を踏まえたあるべき姿の設定力、解決策の提示など大変説得力があり刺激的であった。圧倒的な教養にも驚かされた。自分も自分の好きな分野でTopになれるよう、専門性を深めていき、日本の再興に貢献したい。


日本再興戦略 (NewsPicks Book)

日本再興戦略 (NewsPicks Book)


人を動かしてこそ文章だ!「みんなが書き手になる時代の新しい文章入門」

個人の発信力が過去になく高まっている今日この頃。Facebooktwitter、ブログなどのツールがそれを後押ししているのだ。一方、有象無象の文章が乱立している感も否めない。おもしろくない文章や読者の心を掴めない文章は新たに発信される無数のおもしろい文章に埋もれていくだけである。

 

そんな中で、書き手の多くは自分の頭の中で考えていることや出来事をうまく読者に伝えられているのだろうか?そもそも何の為に文章を書いているのだろうか?

 

本書はあらゆる書き手が抱えているであろうこれらの課題を「文書を書く目的」から整理し、「論理」と「構成」という解決手法をわかりやすく説明している良書だ。ブログなどのライターだけでなく、企画書を書くビジネスパーソンは必読だ。

 

まず、文章を書く目的は「読者を動かすこと」である。自分の意見や自分が有益だと思った情報を文章にして伝え、他人の心を動かし、行動に移してもらう。つまり自己満足ではいけないのだ。人を動かす為には内容を理解してもらうことが必要であり、そのためには「論理的であること」が最低限求められる。文章のおもしろさやうまさはその次である。

 

では、論理的な文章を書くにはどうしたら良いのだろうか。それを理解する上でまず非論理的な文章とは何かを理解する必要がある。

 

非論理な文章とは、文章が迷子になっている状態をいう。人が迷子になるときには必ず曲がり角で曲がってはいけない方向に曲がるという凡ミスを繰り返し、自分の位置がわからなくなっている。文章も全く同じで、ぼんやりとした意識でなんとなく走り、曲がり角で当てずっぽうに進んでいる。結果、支離滅裂の文章が出来上がる。

 

では、このような文章になるのを避ける為にはどうすればよいのか。

 

支離滅裂な文章かどうかは接続詞を使って簡単に検証できる。接続詞は省略されているケースが多いが、前後の文章の間が順接・逆説のどの接続詞を使っても成立しない時、文章は破綻していると思って良い。常に自分を疑って、投げ出すことなく見直すことが重要である。

 

次に意識しなければならないのがいかに文章に説得力を持たせるのかというポイントだ。前段でも触れた通り、文章を書く目的は相手を動かすことだ。そのためには主張の正当性を示す必要がある。論理的とは「主張=論があり、それを確かな理由が支えている状態」をいう。また、その理由に客観的事実が加わると力が増大する。「主張+理由+客観的事実=本物の説得力」となる。

 

以上が論理的な文章を書くためのポイントだが、次はいかにしておもしろい文章、つまり、読者に読んでもらえる文章を書くかという点だ。最も重要なのは文章の構成だ。構成でおもしろさが決まると思ってよい。イメージしづらい人はドラマのカメラワークを意識すると良い。

 

ドラマでは必ず導入・本編・エンディングの3部構成になっている。導入部分ではこれから何が始まるのかなどの状況説明があり、本編ではその状況の中での主人公の動きが中心(≒主観)となり、エンディングで再び全体像に触れられる。このような形で視聴者が迷子にならないようにガイドしている。文章もドラマの構成と全く同じで、おもしろい文章は必ず序論・本論・結論の3部構成となっている。

 

序論では客観的な状況説明が入り、本論で何を語るのか、なぜ語るのかなどを俯瞰的に捉え、読者を同じ土俵に上げている。

 

本論ではそれに対する自分の主張や仮説を書く。主観に近い位置から対象を書くことが大切だ。

 

結論では客観的立場から論をまとめる。その時のポイントは展開してきた自論に客観的事実を加えることだ。それが加わることで説得力が格段に上がる。

 

当方もブログで発信する人として本書は大変参考になった。本書を読む前と後では記事の出来も大きく変わるだろう。「自分を疑うことが文章の出来を左右する」本書で最も響いた言葉だ。書くことが自己満足にならないよう、今後意識していきたい。


みんなが書き手になる時代の あたらしい文章入門 (スマート新書)

初心者もまずこの一冊から!「決算書がスラスラわかる 財務3表一体理解法」

 

財務諸表の一般的なイメージといえば、

 

・数字の羅列でそれぞれ何を意味しているのかわからない

・どこから読めばいいのかわからない

 

といったところだろうか。

 

ところが、”Accounting is the language of business” (会計はビジネスの共通言語だ)という言葉があるように、財務諸表を読み解く力はビジネスをする上で必須だ。というのも、財務諸表は会社のあらゆる活動を数値化し、取りまとめた会社のエッセンスだからだ。会社の価値を算出する際も、競争力を図る際も、入口は財務諸表だ。

 

会社の活動は、

 

①お金を集める

②(集めたお金を)資産に投資する

③(投資した資産を使って)ビジネスを行い付加価値を提供し

④利益を上げる

 

という流れである。

 

これらを数字で表したものが財務諸表である。つまり、皆さんの会社での活動も全て財務諸表に表現されているのだ。

 

財務諸表は主に、A:貸借対照表、B:損益計算書、C:キャッシュフロー計算書の3つで構成されている。

 

この3つはそれぞれに役割があり、密接に繋がっているのだ。この繋がりを理解すると、無機質な数字の羅列だった財務諸表が、急に血が通った会社のストーリーに見えてくる。まずはそれぞれの役割について見ていこう。

 

 と思ったが、言葉で理解するよりも、図解して大きな流れを理解することのほうがよっぽど大事だ。普通のビジネスパーソンは会計の専門家になる必要はない。会社の事業活動の全体像や流れ、強み弱みを理解し、課題を見つけ、次のアクションに繋げれば良いのだ。

では、早速見ていこう。

 

貸借対照表と損益計算書は以下の通り繋がっている。

 

(図は明日掲載)

 

細かいことは気にする必要はない。この大きな流れを理解できていれば良い。これでだいぶ財務諸表の見え方が変わるはずだ。

キャッシュフロー計算書との繋がりは、本書をご参照頂きたい。

 

私は元々会計には興味が無かったが、ちょっとしたきっかけで本書を手に取ったことで、会計の面白さに気づき、米国公認会計士試験に合格するほどのめり込んだ。

 

“Accounting is the language of business”

 

会計というビジネス上での共通言語が理解できると仕事に深みが増し幅も広がる。

是非本書を手に取り、きっかけを掴んで欲しい。

 

決算書がスラスラわかる 財務3表一体理解法 (朝日新書 44)

決算書がスラスラわかる 財務3表一体理解法 (朝日新書 44)

 

圧倒的な努力で伝説を作れ!「編集者という病」

 

 

「無理を突破してこそ仕事だろ」

 
これほど熱い思いを持った男が他にいるのだろうか。
石原慎太郎などの文壇だけでなく、尾崎豊松任谷由実など業界のトップオブトップと圧倒的な努力と人間力で信頼関係を築き、業界の「無理」を突破してきた見城徹
 
本書は見城氏のこれまでの編集者人生を振り返り、仕事に取り組む上での心構えや学びを具体的なエピソードを交え、余すとこなく書かれている。編集に関わるものだけでなく、働くものすべてに共通する心構えとなるビジネスパーソン必読の書だ。
 
 
まず、編集者とは「人の精神という無形のものから本という商品を作り出し、収益を上げる」という仕事である。つまり、編集者が、良いと思う表現者の懐に入り込み、信頼関係を構築することが編集者の原点だ。編集をプロセスで表すと、
 
①コンテンツを見つける→②惚れ込んだ相手に会い、自分を売り込む→③信頼関係を構築する→④相手を刺激し、無意識を顕在化し世の中に提供
 
という、ありきたりなものになりがちだが、見城氏は各プロセスで戦略を立て、圧倒的な努力で新しい価値を世の中に提供してきた。以降でプロセス毎に見城氏の言葉を紹介したい。
 
 
①コンテンツを見つける
「オリジナリティがあること」「明確であること」「異端・極端であること」「癒着があること」が売れるコンテンツの条件である。
 
「無名のものを見つけ、大きくして初めて編集者」
 
 
②自分が惚れ込んだ相手に自分を売り込む
「うちと仕事をしない、という人たちを落として仕事をしよう。そうじゃなかったら自分の価値は無い。」
 
「所属する組織はいつも隠れ家でなければならない。その場所がアイデンティティになってしまうと、自分の存在価値は全く無くなってしまう」
 
「編集者というのは伝説を作れるかの勝負。伝説さえできてしまえば、すべてがうまく回転していく。」
 
惚れた表現者にどれだけ親身に関われるかが編集者の原点」
 
「どんな世界でも決定的に大物だと言われる人3人に必死に食らいついて、その3人に可愛がられる。加えて、自分の目で見てこれは絶対にすごくなると思う新人3人を押さえる。この6人を抑えれば真ん中は自然に向こうからやってくる」
 
 
 
③信頼関係を構築する
「膨大な人脈は夜を徹しての酒と議論、寝る間を惜しんでの耽読によって築かれたもの。これほどの努力を人は運という。」
 
 
④相手を刺激し、無意識に思っていることを顕在化→世の中に提供
「刺激する言葉をいっぱい吐く。その人が無意識に持っているものを観察しながら、それをどの言葉で言ったら相手の中で顕在化していくのか。もし傷口があるのであれば、どの場面でそこに塩を塗りこむのか。相手に僕と仕事がしたいと強く思わせる状態ができるまでは無理に何かしようとしない」
 
表現者にとって一番書きたくないものが編集者には一番書かせたいことであり、それが黄金のコンテンツになると信じて口説き落とす。それが編集者である。」
 
「人の精神と仕事する。相手を刺激できない編集者ほどつまらない存在はない。自分を刺激してくれる、成長させてくれると思われなければ、表現者は絶対についてこない。」
 
「相手との距離を縮めて付き合うわけだから、関係が一時悪化することもある。大事なところに触れてしまうわけだから、擦り傷、返り血も浴びる。それを恐れていても何も始まらない。取り返しのつかないことになってもいい。踏み込まず、なぁなぁより良い。」
 
「リスクの8割は努力で埋められる。実現可能性が低いと思われるもの以外は仕事じゃない。だからリスクが10あるところに行く。常に最悪を想定。その上で最高をイメージし、そこに向かって何をやるか。最悪を想定して最高をイメージできるから、クリエイティブなところではギャンブルがありえる」
 
 
素晴らしい言葉の数々である。が、実行するのは大変だ。なぜ見城氏は実行できるのか。それは死に際に、「良い人生だったと思いたい」からだ。やはり、「何の為に頑張るのか」という思想がしっかりしている人や「死への意識」がある人は強い。スティーブ・ジョブズもそうだった。
 
良いものを世の中に送り出したいという強い思い・覚悟・チャレンジ精神、圧倒的な努力、自分磨き何かで突き抜けていないと世の中のトップオブトップとは信頼関係を構築することはおろか、会うことすらできない。手っ取り早いのは唯一無二の圧倒的な伝説をつくることだ。内容は何でも良い。自分が好きなことで寝食を忘れるくらいの圧倒的努力をしよう。その努力で積み上げられた伝説・資産の価値はいつか人の目に止まるし、そう簡単に毀損しない。その資産を売り込み、信頼関係を構築し、償却して、世の中に付加価値を提供しよう。
 
そんな風に意識して生きていったら楽しいし、見城氏が言うように納得して人生を終えられそうだ。
 
ちなみに、今これを体現しているのが幻冬舎の箕輪氏である。箕輪編集室やNewsPicksアカデミアなど彼の活躍から目が離せない。
 

 

 
 

人口減少社会への処方箋 「新・所得倍増論」

先進国最速での高齢化の進展、社会保障費の増加、少子化、国の借金の増大など課題が山積みな日本。これらの課題を解決する為には経済成長が必須である。但し、人口が減る中でそれを成り立たせる為には、生産性の向上が不可欠だ。

 
本書では、日本で30年以上在住しているアトキンソン氏(元GSパートナー、現小西美術工藝社社長)が各種データやイギリス人ならではのフラットな視点で日本の高度成長期やその後の失われた20年の理由を明らかにし、少子高齢化の中求められる経済成長への処方箋を提供している。
 
ご存知の通り日本のGDPは世界第3位だ。一方、これを一人当たり(≒生産性)に置き換えると27位でイタリア、スペイン並みだ。日本は高齢化が進んでいるからだ!という意見もあるが、労働人口あたりでの順位はさらに下がる。なぜこのような結果になってしまっているのか。背景には生産性を高めなくても成長できた高度成長期の成功体験がある。
 
GDPは人口×生産性で算出されるが、1977年からバブル崩壊までの経済成長は基本的に人口増による人口ボーナスで説明できる。この期間の人口の伸びは先進国では考えられないレベルであり、日本型経営の賜物ではないのだ。ちなみに1990年代からの低成長の理由も人口減少の影響が大きく影響している。
 
ただ、人口という前提条件が大きく変わる中でもこの時の成功体験を引きずってしまっているのが今の日本だ。例えば、良いものを安く売る、という考え方だ。人口ボーナスで量が出るから高く売らなくてもビジネスが成立する。本来良いものは高くあるべきだし、高く売れるよう知恵を使うべきだ。
また新発売キャンペーンも商品の性能や魅力を語るのではなく、ただ新しいことをセールスポイントにしており、日本特有だ。これも人口ボーナスの中、目を引くキャンペーンやイベントを行えば、それなりの数字が付いてきてしまったことによる影響だ。
 
前提条件を確認し、それに合わせて対応すれば良いのだが、「無条件に現状を維持しようとする姿勢」がその足かせになっている。例えば年功序列。これも平均寿命が短かった頃、職人が腕を極めると同時に亡くなるケースが多かった為成立していたものだ。いまは平均寿命が80歳を超えており、理にかなっていない。銀行の窓口が15時に閉まるのも同様だ。昔はお金の計算を人がやっていた為15時に閉めないと当日中に計算を終えることができなかったのだが、今はATMも普及しており、そんなことはない。このような改善点を指摘しても「昔から続けられている」「前例がない」などの理由で正当化しようとする傾向が強い。結論ありきで前例を確認しようとしないことすらある。本来そのルールが持つ意味が忘れ去られ、ルールを守ることだけが目的化してしまっている。ルールが再検証されないのだ。
 
増え続ける社会保障費、少子高齢化など前提が変わる中、悠長なことは言ってられない状況だ。サービス業、製造業の輸出、研究開発費の効率化など他国比での伸びしろはまだまだある。政財界が一丸となって取り組むべきだ。人口減少は直接的には企業に影響がない為企業の関与が薄くなりがちだが、財政課題を抱える日本では企業の巻き込んでの達成が必須である。そこで筆者はGPIFの株式比率を上げ、利回りを上げるよう企業にプレッシャーを与えることが重要と主張している。自ら変革を起こすのを待つのではなく、外圧で資本の活用、経営者の実績向上、株価上昇を求めるのだ。その結果、設備投資も促進され、生産性向上が期待できる。
 
人口減少時代はすぐそこにきており、これまでの優しい共存共栄ではなく、経営者に強権を発動し、変化を促すしか道は残されていない。
 

デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論

デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論

資本主義から価値主義へ「お金2.0」

2017年はビットコインをはじめとする仮想通貨の年であった。また、valuやtimebankなどの新たなサービスも生まれ、お金とは何かを考えさせられる年でもあった。

 

本書では、お金や経済とは何か?についてその起源やメカニズムを噛み砕いて説明すると共に、それがテクノロジーの進化によって、従来の資本主義の枠組みでは価値が認められなかったものの価値が可視化される「価値主義」の到来を予測している。

内容もさることながら、筆者の物事を深掘りし本質を突き止める姿勢や、導き出された仮説を机上の空論で終わらせず、事業で繰り返し検証する姿勢に感銘を受けた。

 

まず、お金には価値の「保存」「尺度」「交換」の役割があり、貝殻、金属、紙など時代によって形を変えてきた。元々は価値交換などの「手段」に過ぎなかったお金だが、それが社会の中心になるにつれて、お金からお金を生み出す方が効率的だと考える人が出てき、「お金を増やすこと自体が目的」になってきた。お金がないと何もできない資本主義の元では必然的な流れである。

 

そのお金の活躍の場が経済システムだが、持続的かつ自発的に発展する非常によくできたシステムだ。発展するシステムに共通するのが①インセンティブ、②リアルタイム、③不確実性、④ヒエラルキー、⑤コミュニケーションだ。

まず経済システムには参加者がいないことには何も始まらないが、参加者を集めるには明確な報酬が必要だ(①インセンティブ) 。モノが溢れる現代では社会的な欲望が強い。中でも「儲けたい・モテたい・認められたい」を満たすシステムは急速に発展しやすい。

また人間は変化が激しい環境では緊張感を持って活動することができるが、変化がないと緊張も努力もする必要がなくなり、全体の活力が奪われてしまう(②リアルタイム)。

併せて、誰もが何事も予測可能なシステムでは必死に生きたいと思わないだろう。運と実力の両方で這い上がることができるシステム設計が重要だ(③不確実性)。

そのようなシステムの中での活動の結果が可視化され、他の参加者と比較できることも重要だ(④ヒエラルキー)。売上、利益、年収、偏差値、肩書きなどがそれに当たる。但しヒエラルキーが固定化されると全体の活力が失われる為、新陳代謝を促す制度設計が重要だ。

また、参加者とコミュニケーションも重要だ(⑤コミュニケーション)。人は社会的な生き物であり、他人との関係性で自己の存在を定義づけしている。参加者同士が交流しながら助け合ったり議論したりする場を提供することが重要だ。

 

自発的に発展する経済システムは上記の5つの観点が含まれているが、忘れてはならないのが、システムには寿命があるということだ。完璧なものを作ろうとはせずに、寿命があることを前提に、寿命がきたら別のシステムに参加者が移れるように準備しておくことが重要だ。

また、参加者は利害を重ねる共同体でありながらもライバルでもある。自分勝手ややったもん勝ちの状態が放置されると崩壊に繋がる。秩序を保つことが重要だ。それでも意見が分かれることもあると思うが、その時に参加者で共通の理念があるとシステムの寿命が長くなる。

ビットコインフェイスブック、グーグル、アップルなどは働く人に高い金銭的報酬と社会的報酬を与え、激しく変化を繰り返し、数字や役職を可視化し、明確な理念をメンバーに浸透させることに多大な工数を割いている。

 

そして今、お金・経済がテクノロジーにより変わろうとしている。キーワードは分散化だ。

 

既存の経済や社会は必ず組織の中央に管理者が存在し、情報と権力を集中させていた。それが最も効率的だったからだ。その後、インターネットとスマホがプラットホームとなった今、リアルタイムであらゆる情報が共有されるようになり、中央に集まっていた力が個人に分散化されるようになった。UberAirbnb、mercariなどが個人をネットワーク化し価値を個人の遊休資産で価値を提供できるようになった。UberAirbnbもなくなる未来が来るかも知れない。

シェアリングをさらに推し進めたのがトークンエコノミーだ。従来は国家が法定通貨を発行し、企業や個人はその通貨でプレーヤーとしてビジネスや生活していたが、トークンエコノミーでは特定のネットワーク内で流通する独自の通貨をトークンとして企業や個人が発行。トークンの性質や流通ルールも自由に設計が可能だ。国が行なっていることの縮小版である。参加者が増えれば増えるだけ便利になるネットワーク効果があり、アマゾン、グーグル、アリババなどが発行すると面白いかも知れない。

かつては国が作っていた経済システムだが、新しいテクノロジーにより個人が作る時代になっている。

 

このようにテクノロジーにより情報非対称性がなくなり、中央に集まっていた権力が個人に分散化され、従来お金という尺度で測りきれなかったものがお金や価値を生む時代になった。それが価値主義である。

 

企業価値は財務諸表から算定されるが、今の会計はネット誕生以前のもので、製造業が中心の仕組みだ。モノが溢れ、サービス業が中心となりつつある中で価値主義にそぐわなくなっている。例えばwebサービスの会社にとっては最大の資産はユーザーやそこから得られる購買データなどだが、仕組み上、財務諸表にその価値が載せられない。googlefacebookもデータ価値をお金に変えていないだけなのだ。

そのような状況の中で、海外の一部の投資家は「企業の従業員の満足度」を投資判断に用いている。IT企業などは財務諸表を見ていても競争優位となる価値が反映されていない。優秀な人がやりがいを持って働いているかどうかが最も重要な基準なのだ。

 

資本主義から価値主義への大転換期の今、個人がすべきことは価値の最大化だ。あらゆる価値を最大化しておけばいつでもその価値をお金に変えることができる。あらゆるものの判断基準が「自分の価値を高められるか」に変わるのだ。

 

本書には徹底的な検証を経て見出された本質が詰まっている。変化の激しい時代だが、内容を自分のものにして、色々と仕掛けていきたい。

 

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)



今からでも入社したい!『リクルートのすごい構“創”力 アイデアを事業に仕上げる9メソッド』

変化のスピードが上がり、競争が激化している世の中。会社は生き残りをかけて新規事業やイノベーションを起こそうと躍起だがうまくいかない。天才やカリスマにしかできないとも思われがちだ。

そんな中、普通の社員の必ずしも名案ではない案を磨き、育て、事業化し、世の中に価値を提供している会社がある。リクルートだ。上場から約3年で株価は3倍だ。

リクルートの主戦場はマッチングビジネスだ。産業を俯瞰し、カスタマー、クライアントをより多く集め、より確実に動かし、より多くを結びつける仕組みを提供している。

本書はリクルートの、新規事業を創出し、成長させる「手法」と、それを仕組み化し成果を出し続ける為の「経営陣の役割」について実例を交えながら説明している新規事業のバイブルだ。

まず手法だが、3つのステージ、9つのメソッド分かれている。

最初のステージは「世の中の“不”をアイデアに変える」ステージだ。ここでは、あるべき姿を物差しに、世の中の見過ごしがちだが誰も目をつけていない不便、不満、不安を見つけ出す。世の中のアンマッチを可視化→在庫化し、プラットフォームを提供し結びつける。事業化するかどうかの判断で重要なのが、世の中が本当に解決を求めているのか?既存の産業構造を変えるほどの大きな可能性を秘めているのか?それをカスタマー、クライアントだけでなく、産業構造を含め俯瞰して見極めることだ。このステージで見つけた“不”は限定的な規模でテストされ、ブラッシュアップされていく。

次は「勝ち筋を見つけ」「単なるアイデアを事業に成長させる」ステージだ。まず継続的に収益を上げる仕組みを作る為、価値KPIを設定する。これはバリューチェーン全体でどの工程のどの指標を上げれば事業価値が上がるのかを見極めるステップだ。これを見極め、腹落ちさせ、徹底してフォローすることが重要だ。

最後は爆発的な拡大再生産を実現するためのステージだ。ここでは収益を伴いながら事業を拡大する為、前のステージで設定した価値KPIでPDCAを回す。また、成長軌道に乗った事業が持続的に発展できるよう、現場で“兆し”を吸い上げ、小さな革新を繰り返し、競合に対する優位性を保つことが求められる。

これらの手法を用い、成果を出し続ける為の経営陣の役割が「お前はどうしたい?」を繰り返すことで生まれる「担当者の圧倒的な当事者意識」の引き出し、若さを保つ為にノウハウの属人化を防ぐ「称賛とノウハウ共有をセットにした表彰システム」「事業成長のために必要なリソースの提供」だ。人を見極め、投資し、任せる、資本家による起業家への投資と一緒だ。

このようにリクルートでは、社会をより良くしたいという圧倒的な当事者意識を持った現場社員が解決すべき“不”を見つけ出し、標準化された手法で“神速”でPDCAを回し、価値KPIを見つけ出し、経営陣や横とも連携して社会の不を解消している。

本当に魅力的な会社だ。今からでも遅くなければこんな会社で鍛えられたい。